窓越しの世界
September 26, 2007
外を眺めている。寝室の窓から、お風呂の窓から、ダイニングの窓から、ムジカは外をじっと眺めている。
そこから見える景色は、向かいの家だったり、ぶらりと垂れ下がった電線だったり、道行く人の姿だったり、無造作に伸びきった雑草に覆われた空き地だったりする。つまりはごくごくありふれた日常の景色。時にはハッと息をのむほど赤く染まった夕焼け空や、どこまでも気持ちよく延びてゆく飛行機雲が見えたりもするけれど、その特別な瞬間が過ぎ去れば、やっぱり相変わらずな景色が戻ってくる。
そんな景色をムジカは毎日眺めている。何か想うところがあって外を眺めているのか、それともただただ外を眺めているだけなのか、正直わたしにはよくわからない。それでもだらりと垂らしたシッポが時折ぴくんと動いたり、突然ぶらりぶらりと振り子のように左右へ動き出したりするから、何かしらの感情を持って外を眺めているようだ。外を眺める時のやけに神妙な顔つきは、わたしの心にちくっと後ろめたさを刻み込む。
ムジカはずっと家の中しか知らない。生まれた家では外に出されていないし、譲ってもらった時の約束でわたしもそうしている。様々な本を読んで、交通事故や病気の予防からも室内飼いがいいと自分でも納得した。それでも外を眺めているムジカを見ると迷いが浮かんでくる。動物の自然な生き方を尊重するなら外に出してあげるべきなのだろうか、人間のエゴで不自由な思いをさせていないだろうかと。あるいは外の世界とムジカが交差することは一生ないのだろうかと。
その日もムジカは外を眺めていた。すると「ねこちゃん、ねこちゃん」と外から呼びかける声が聞こえてくる。後ろからそっと覗いてみると、年配の女性が柔らかな笑顔でムジカに声をかけてくれていた。救われたような気持ちと嬉しさがじんわりとこみ上げてくる。少なくともその一瞬だけはムジカと外の世界が交差し、女性の顔に明るい色を添えられたのだから。そこにはわたしの知らない時間が流れていた。意外とムジカにはムジカなりの世界との関わりかたがあり、名前も知らない人たちの笑顔を作り出しているのかもしれない。
【今日のMUSICA】
The Velvet Underground & Nico Sunday Morning